今月の暴れん坊
『清水の暴れん坊』『暴れん坊森の石松』という期
せずして並んだ二本を例に取るまでもなく、アクショ
ンや時代劇を主に上映していると、それこそ『暴れん
坊』だらけとなる。
特に今月はその極めつけ‥‥歴史的な暴れん坊、つ
まり暴君を見ることが出来る。
『秦・始皇帝』がそれだ。
7月末に上映した『釈迦』に続く、大映70o映画
第二弾。紀元前221年、歴史上初めて中国全土を統
一した暴君中の暴君、始皇帝の生涯を、豪快に描く。
主演は、『釈迦』のダイバダッタ役で話題をさらっ
た勝新太郎。同じ年には座頭市も始まっていて、彼の
役者人生も暴れ始めたところだ。
見せ場は、当時の中華民国(台湾)陸軍の全面協力
を得て再現した、中国大陸における大戦闘シーンと、
かの歴史的土木事業、万里の長城建設である。
ところで、このタイトル、いつもなんて読んだらい
いか迷うが、予告編では『しんのしこうてい』と呼称
しているので、このさい、これで統一しよう。
さらに付け加えたいのは、ソレガシの記憶が正しけ
れば、35o版とはいえ、この作品が都内の映画館で
上映されるのは、二十余年振りのこと。これが快挙と
言わずして何を言うか?
この機を見逃すと、次に見られるのは、二十年後だ
と覚悟していただきたい。(2008.11)
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今月のインフレ
こんなご時世に、インフレなんてトンデモナイ、と
言われそうだが、ご安心を。インフレはインフレでも、
強いヤツのインフレである。
だれの心にもヒーローやヒロインがいる。アクショ
ン物や時代劇にも欠かせない。そんな映画を中心に上
映している当劇場では、どうしてもそんな男と女のオ
ンパレードとなって、アリガタミが減って大暴落、つ
まり『インフレ』を起こすワケだ。
ことに今月は、異色の強者が揃って凄い。
お馴染み座頭市はもちろん。その女版ともいえる、
めくらのお市。原爆教師、沢田研二に不死身の刑事、
菅原文太。さらに海の向こうからは、ブルース・リー
と人気を二分したクンフー・スター、王羽(ジミー・
ウォング)も参戦し。さらにさらに、剣豪、宮本武蔵
なんか、景気良く二人も出ちゃう豪華版。
さすがにこれだけ揃うと、一体誰が一番強いのか、
さっぱりわからなくなる。この際決着をつけて貰いた
いところだが、残念ながらそういった作品はないので、
妄想を広げるしかない。
個人的には、王羽だが、日本版では座頭市に負けて
いるので落選。
ここはいっちょう、今月封切りとなる座頭市の女版
(というより、イメージ的にはモロにめくらのお市)
新作『ICHI 市』を記念して、めくらのお市に決
定。女の時代だ。不況も女が吹っ飛ばす。(2008.10)
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今月の閂
門構えに『一』と書いて、『かんぬき』と読む。門
が開かないように横に渡すアレである。
パーツ別ベストムービーなんてものがこの世にあっ
たならば(そんなことをやり始めたらキリがないが)、
ベスト閂映画として推したいのが、今月上映の『斬る』
である。
『斬る』というタイトルを聞くと、市川雷蔵の同名作
を思い浮かべる方もおられるとは思うが、まったくの別。
山本周五郎の原作を、大胆脚色した、岡本喜八監督作品
である。ちなみに、ソレガシにとっての時代劇映画ベス
トワンでもある。
話しが黒澤明監督の『椿三十郎』似ていることから
(実際に三十郎みたいにしてくれという上からの指示が
出ていた)、どうも影に隠れている感があって、まこと
に残念なのだが、この作品の魅力は、登場人物たちの描
き込みにある。良いヤツも悪いヤツも男も女も、実に魅
力的で、それぞれが必ずどこかで主役になっている。
それで、件の閂であるが、映画の中盤、砦山での敵味
方入り乱れての大立ち回りの後、若侍たちが砦に引き揚
げた直後に登場する。その色艶といい、アングルの見事
さといい、閂はこう撮れという見本である。ただし、写
るのはホンの数秒。このカットの直前に大爆笑の
シーンがあるが、そちらに気を取られていると見逃すの
で、注意が必要だ。(2008.9)
(補遺 2008.10)
閂映画第二位はなにかというと、やはりオリジナル『キング・コング(1933)』であろうか。
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今月の渥美清
八月四日は、渥美清の命日である。早いもので、亡
くなってもう十二年にもなる。
先月の石原裕次郎に引き続いての、亡くなった方で
の商売は、いささか複雑な思いもあるが、上映しない
わけにいかず、ご勘弁願いたい。自己満足かも知れな
いが、故人だって主演作が多くの方の目に触れられる
ことをきっと喜んでおられるに違いない。
今月は、文句なしの代表作『男はつらいよ』シリー
ズともに、脇役として出演した『皇帝のいない八月』
の上映もある。
『男はつらいよ』の成功後、渥美清は、車寅次郎の
イメージを逸脱するような役をすべて断っていた。だ
から、『砂の器』の映画館館主、『八っ墓村』の金田
一耕助、『トラ・トラ・トラ!』の炊事係、等々、す
べて寅の姿が透けて見える。それを痛々しいような気
持ちで見つめながら、しかし、心のどこかでホッとし
ていた。そんな映画ファンは多いはずだ。
渥美清は、『男はつらいよ』の封切りの度に、必ず
浅草でお客として入場し(ほとんど気づかれなかった
そうである)、場内の反応を見ていたという。
『浅草の客さんは他とは違うから』
と、生前の渥美清は、よく言っていたらしい。
今あなたが居る場所は、もしかしたら渥美清が居た
ところかも知れない。そんな風にも思えてくる浅草の
空気の中で渥美清を偲ぼうではないか。(2008.8)
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今月のテクニカラー
今月の目玉はなんと言っても、30日からの『釈迦』である。
当時の大映社長、永田雅一はこう豪語した。
『忙しい今の日本人に、二本立て興行は長過ぎる』
そして社運を賭けて製作されたのがこの超大作、日本初の70ミリ映画として映画史に名を残している。
上映時間は実に二時間半。二本立てを長過ぎるとか言いながら、一本で二本分の長さの映画を作れば同じだと思うが、そんなツッコミはこの際ナシ。
インド仏教の開祖、仏陀の生涯を描く‥‥などと書くと小難しいが、そこは日本全国どこへ持っていってもわかる映画を作っていた大映である。本郷功次郎と勝新太郎との長年に渡る、法力、妖術、奇蹟、天変地異を交えた大抗争の話しだと思ってくれれば良い。
この作品は、なんと、テクニカラーで撮影されている。当時のテクニカラーは、今のそれとは異なり、非常に複雑な手法によって創られる贅沢品であり、独特の色彩。時が経ってもあまり退色しないという特色を持つ。今回の上映は、国内に唯一残されているテクニカラー・プリントによるものである。ただし、70ミリでなく35ミリプリントなのは、ご勘弁を‥‥。
『釈迦』はオールスター映画。次々と登場するキラ星の如き美男美女たちと、ハリウッド映画に匹敵する大スペクタクルを、当時そのままの色彩で堪能していただきたい。(2008.7)
(補遺 2008.8)
今回の上映プリントはイーストマンカラーの物であった。これ一本しかないということなので、テクニカラーのプリントはジャンクされてしまったのかもしれない。だとしたら残念だ。
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今月のシリーズ
今月は毎週なにがしかのシリーズ作品が入っている。その中でも異色といえるのは、『ヤサぐれ(この表記が正しいらしい)』シリーズであろう。
なんで異色かというと、映画のメイン・タイトルにデカデカとシリーズ名が掲げられている(読みにくい字体で判読に時間がかかるが)こともそうだが、なんといってもこのシリーズ自体がよく分からない。インターネットの検索にもまったく引っかからなかったりするのである。これ一作だけで、シリーズが存在していないのではと思ったが、さにあらず。
いろいろ調べてみて、高宮敬二が同じ役名で登場する作品が三作あることを発見。これが『ヤサグレ』シリーズと理解するに至った。
今回上映される『顔を貸せ』は、シリーズ第2作にあたる。一作目は『やさぐれの掟(1965)』、三作目は『東京無宿(1966)』である。
主演の高宮敬二は、その昔、新東宝で、菅原文太、吉田輝男、寺島達夫とともに『ハンサムタワーズ』として売り出された俳優。
長身の二枚目で、東京タワーの竣工にちなんだものだから、『ハンサムタワーズ』なのだが、このセンス、いかにも新東宝というか……時代色豊かというか……。『顔を貸せ』には、『ハンサムタワーズ』の二人が出ている豪華版。こんな作品が見られるのは、新劇だけなので、この機会をお見逃しなく。(2008.6)
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今月の長谷川伸
なにかまとめて語れる作品はないかと、今月の番組を見て、困り果ててしまった。
なにもないのである。もう一度、眺め回して、ややッと目に留まったのは、『関の弥太っぺ』と『必殺5』。前者の原作者は、長谷川伸。後者は池波正太郎。池波は長谷川の弟子にあたる。
長谷川伸と言えば、股旅物の生みの親であり、義理と人情と男の粋を描いた大小説家、劇作家である。
しかも彼の著作を原作とした映画は、実に百数十本もあり、星の数ほどもいる小説家の中でトップクラス。ものの本によると彼は歴代三位というから、日本映画界は墓前に銅メダルをお供えするように。
ちなみに一位は誰かというと、川口松太郎。二位は大佛次郎(ダイブツジロウと読まないように)である。
それほど映画化作品が多いにも関わらず、当館でなかなかお目にかかれないのにはワケがある。百数十本の内、大部分が戦前の作品。シネスコとビスタをモットーとする当館では、たとえプリントがあっても掛けられない。残る戦後作品はと言うと、なんと市川雷蔵の主演作が多くて、やはり無理、今回の『関の弥太っぺ』は数少ない上映可能作品なのでお見逃しなく。
ところで、トンと映画化されなくなった長谷川伸作品だが、舞台では健在。今もSMAPの草g剛が『瞼の母』に挑戦している。新たな長谷川ファンを生み出してもらいたいものだ。(2008.5)
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今月の三船敏郎
なにかに因んでのことではないのだが、今月は三船敏郎主演作が三本も並んでいる。
『赤毛』と『山本五十六』は当館では既にお馴染みなので、今更クドクド書き連ねることもないだろうが、『日本誕生』は、とりあえず記録上では初登場、紹介しなくてはなるまい。
古事記と日本書紀を原作とした、日本の神話と国造りを描くこの作品は、日本映画黄金期でしか、なしえなかった史上空前絶後の超大作であった。ちなみに東宝製作一千本記念作品である。
どう超大作かと言えば、普通の作品ならば、二分もあれば紹介出来てしまうオープニングでのスタッフとキャストのタイトルに、延々四分以上もかかることから解ろうというもの。
有名なアマノ岩戸に隠れる天照大神(『てんてるだいじん』じゃないよ『アマテラスオオミカミ』だ)を原節子が扮しているのもいいが、なんといっても見所は、ヤマトタケルノミコト(人間)とスサノオノミコト(神様)との二役を演じる三船敏郎。女装(たぶん、唯一)まで見せるおまけ付き。
なお、今回上映されるのは、海外向けに再編集された上映時間約二時間の版である。
奇しくも、隣の浅草名画座では、三船敏郎初期の傑作『ジャコ萬と鉄』を上映。こちらも合わせてご観賞頂き、丸ごと三船敏郎を堪能して欲しい。 (2008.4)
(補遺 2008.8)
いざ上映してみたら、タイトルは三分位しかなかった。四分以上というのは筆者の思い過ごしである。
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