今月の痛そう
映画なんて、しょせんスクリーンの中だけの出来事。
なんてタカを括っていると、まれにとんでもなく衝撃
的な描写に出会うことがある。今月上映する『切腹』
はその最たるものである。
腹を十文字に切ってから介錯人に首をはねてもらう、
という正しい切腹の作法教えてくれるありがたい作品
だが。それを斬れないタケミツでやろうってんだから、
今これを書いているだけでもなにやら寒気がする。実
際その迫真の場面は、見ているこちらにも身を斬る痛
みが伝わってくる。
痛みといえば岡本喜八である。たとえ映画であろう
とも、決していい加減な気持ちで人の死を扱わないと
いうこの監督は、例えば銃弾が命中した時などは、
『焼け火箸みたいなモンが通り抜けたんだよ。全身の
神経がそこに集中して硬直しちゃうんじゃない』
なんて演技指導したそうな。『独立愚連隊』ではそ
んな場面が見られるはずだ。
また『狼よ落日を斬れ』では、豪快人間唐竹割りが
登場する。まさに頭のテッペンから股に掛けて、縦一
文字に真っ二つだが。ここまでくると、痛いんだかな
んだか、斬られてみなくちゃわからないが、ソレガシ
は斬られたくない。 (2010.3)
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今月の昇り竜
筆者は長い間、扇ひろ子と扇千景を同一人物と勘違
いしていた。扇千景が宝塚出身であることは知ってい
たので、なにやら事情があって、東宝ではなく日活の
映画に出ているのだと思っていたのである。
まったく、無知もいいところだ。
今回無知を解消すべくいろいろ調べたら、ひろ子と
千景とでは十歳以上も歳が離れていることや、ひろ子
が歌手で紅白にも二度出ていることまで判った。
さらに面白いことには、扇千景の本名はなんと林寛
子! 一般によく知られている林寛子は、今月上映の
『男はつらいよ 寅次郎春の夢』に出ている。
さてひろ子の方は、東映の藤純子、大映の江波杏子
と並んで、日活の扇ひろ子と呼ばれた女任侠スター。
『昇り竜』や『朱鞘仁義』などのシリーズがある。
『昇り竜』シリーズというと触れて置かねばならぬ
のが、第五作の『怪談昇り竜』であろう。怪談とは名
ばかりの女任侠物で、お化けも出なけりゃ、扇ひろ子
も出ずに、梶芽衣子が主演になっている。
この作品はとにかく、内田良平の、上半身は背広、
下半身はフンドシ一丁というヤクザが最高。是非とも
当劇場でも上映したいのだが、十年ほど前にプリント
が廃棄されたらしく、やりたくても出来ない。
記録によると『昇り竜』シリーズは全部で5作ある
らしいのだが、三本しか確認できず、残りの題名がわ
からない。誰か教えてくれまいか? (2010.2)
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今月のC12
新年早々鉄オタネタで申し訳ないが、森繁追悼も兼
ねているのでご勘弁願いたい。
ソレガシは、『喜劇各駅停車』のタイトルを見ると
なにやら居ても立っていられなくなる。なにせ、全編
に渡ってC12が見られる映画だからである。
興味のない方に少々説明すると、C12とは旧国鉄
の小型蒸気機関車の型番である。軽快で、飄々とした
その走りは、どことなく森繁のイメージとも合ってい
るような気がする。しかも、超絶キャメラワークによ
り、森繁が本当に運転しているように見える。横移動
で延々と捉えた映像は、日本演劇界を牽引してきた森
繁の姿とダブッて、涙なくしては見られない。
原作は『機関士ナポレオンの引退』という題名であ
り、舞台版も森繁が主演しているので、彼自身この役
には愛着があったのではあるまいか。
映画版がなんでこんな題名なのかは不明だが、当時
は『喜劇』と銘打てばなんでもお客さんが入ったので、
こうなったと思われる。封切り当時のキネ旬で、かの
淀川長治が、『機関士ナポレオンの引退』の題名の方
が良かったと、苦言を呈していた。
実際、喜劇としては少々難があり(つまり、あまり
笑えない)、文芸作品として売るべき作品だったと、
つくづく思う。でもやっぱり、C12はいいなあ。
それでは、本年もよろしくお願いします。 (2010.1)
(補遺 2010.1)
またまたタイトルを間違えました。『機関士ナポレオンの引退』ではなく、『機関士ナポレオンの退職』でありました。お詫びして訂正させていただきます。ああこのコラム間違いだらけ。
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