2009年
今月の中井貴一
 昔から日本の男優は、兵隊役が似合うと言われてい たが、近頃は少々フニャケタ男が多くて、その伝統が 廃れ始めているのは嘆かわしいことである。
 中井貴一を初めて見た時、そのデビュー作が『連合 艦隊(1981)』だったということもあったが、いかにも 軍人顔の役者が出てきたと喜んだものである。
 しかし、デビュー作以来の軍人役は、せいぜい当館 でも上映した『亡国のイージス(2005)』くらい。今 の日本映画界は、思い出したように戦争映画を作って いるが、その面構えが有効利用されないのは、残念な ことである。
 今月の番組では、『四十七人の刺客』と『梟の城』 に出演している。時代劇ではあるが、どちらもハード な役どころなので、その冷徹な眼光を十分にご堪能い ただきたい。
 ところで、『四十七人の刺客』は、ご存じ年末の風 物詩、忠臣蔵の物語。この作品での中井は、大石内蔵 助に敵対する吉良上野介の参謀的役だが、実は彼も大 石内蔵助を演じたことがある。
 『世にも奇妙な物語 映画の特別編(2000)』でだ が、討ち入りをしたくない、喜劇調の大石内蔵助であっ た。嬉々としてアホ演技をする中井は、意外性があっ て面白かった。興味があったらぜひどうぞ。

 それでは、今年一年間、新劇場をご愛顧いただき、 ありがとうございました。
(2009.12)

今月のタメ息
 今年は松本清張の生誕100年だそうで、今月半 ばから東銀座で、大規模な特集上映が行われる。松本 清張と言えばまっさきに思い浮かぶのが、監督の野村 芳太郎であろう。
 野村芳太郎は浅草生まれである。そのためもあるだ ろう、彼の作品には、日本人の機微というか、日本人 だからこそ判る心情や情感が 必ず盛り込まれていた。 それを今月上映の『白昼堂々』で大いに堪能していた だきたい。
 そんな日本的大娯楽映画を撮る一方で、破傷風をホ ラーとして描いた『震える舌』や、超常現象に心理学 的解釈を施した異色サスペンス『真夜中の招待状』な ど、他では避けて通るような題材も映画にした。ヒッ トメーカー故の信頼だろうが、撮らせた会社も偉かっ た。だが、どうしてもOKが出なかった企画がある。
 『遠く熱き道』という作品である。
 これは、野村の戦時中の体験を元にした戦争映画で、 熱帯版『八甲田山』ともいうべき超大作だったらしい。 毎年のように松竹の製作ラインナップに上りながら、 とうとう日の目を見ないまま、野村は他界してしまっ た。今では話題にもならない。
 実は当館には、この作品のスピードポスター(宣伝 部が最初に作る題名だけのポスター)があり、ソレガ シは、それを目にする度に、つくづく見たかったなあ、 と、ため息混じりに思うのである。
(2009.11)

(補遺 2009.12)
 迂闊にもタイトルを間違えました。『遠く熱き道』ではなく、『遠く熱い道』でありました。お詫びして訂正させていただきます。

今月のおんな
 ソレガシは大映の女優というと、江波杏子と若尾文 子が真っ先に浮かぶ。どちらかを選べと言われたら当 然、江波杏子だ。しかし、世間的に代表作がたんまり とある若尾に比べて、江波はどうも分が悪い。浮世離 れした美貌故、役が付き難くかったらしい。若尾主演 の文芸映画の脇に出ていたりもするが、妙に居心地が 悪そうに見える。
 ではなにが当たり役かといえば、『大怪獣決闘 ガ メラ対バルゴン』で演じた、南洋の原住民の娘ではな いかと思う。非日常的な美人は、非日常的な役がよく 似合う。ちなみに我が国の怪獣映画史上、ヒロインが 南洋の原住民というのはこれ一本しかない。まさに希 有な女優である。
 もっとも世間的には『女賭博師』シリーズが、江波 の代表作ということになっている。今月はシリーズ第 5作の『関東女賭博師』を上映する。
 ところで、大映には別に、『関東おんな云々』と銘 打ったシリーズがあり、『関東女賭博師』はどっちの シリーズなのか一瞬迷う珍しい例。イケメンが幅を利 かす昨今、タイトルに『女』を掲げられるのは、なん とも男をそそる。江波作品にも、『女秘密調査員 唇 に賭けろ』とか『女殺し屋 牝犬』といった『女』タ イトル作品があって、心が躍る。たしか『牝犬』では 江波は水着姿まで披露していた。この秋は意味もなく、 江波杏子をプッシュだ。
(2009.10)

今月の解禁
 今月の目玉はなんといっても、『太陽への脱出』で ある。石原裕次郎がアジアを股に掛けた武器商人に扮 したアクションである……と書くと、なにげにありふ れた裕次郎作品ではないかと思われるかも知れないが、 実はこの作品、長い間映画館で上映することが出来な かったのである。
 端から見ていると、映画館というものはフィルムさ えあれば、なんでもかんでも上映できるような気がす るが(ソレガシも、この業界に入る前はそう思ってい た)、そうではなく、さまざまな事情が絡んで上映で きないことが少なくない。
 いくらフィルムはあっても配給権(それで商売する 権利である)を映画会社が持っていなければ貸して貰 えないし、スター俳優や監督が亡くなったりした場合 など、映画会社側で独自の商売をするために、貸し出 しを一時的にストップすることもある。かの黒澤明の 時などは、死去の一年ほど前から、フィルムを貸して 貰えなくなった。
 当館でもリクエストの絶えない『黒部の太陽』のよ うに、裕次郎の意志で、上映できない場合もある。
 では、『太陽への脱出』はどんな事情だったのかと いうと、作品の内容によるものである。それに触れる と、見る楽しみがなくなってしまうので、是非この機 会に見て、なるほどそういうことなのかと納得して戴 きたい。
(2009.9)

今月のお化け
 今月はほとんど浅丘ルリ子特集といってもよい番組 編成である……が、その話題は軽くスルーして、お化 けネタである。理由はもちろん、夏だからだ。
 まず『喜劇駅前怪談』である。初めて見たのは小学 生の頃のテレビだった。昔はよく、日曜日の午後に、 この手の喜劇をよくやっていたものだ。ソレガシは、 まだ喜劇という言葉を知らず、てっきり怖い映画だと 思って見たら、当然のごとくそういった映画ではなく てガッカリだった。ところが、いいおっさんになって 見返したところ、面白かった。駅前シリーズは、大人 のものなのだとつくづく感じた。いやあソレガシも成 長したもンだ。
 で、もう一本、『祭りだお化けだ全員集合!!』は、 封切りで見ている。こっちは大爆笑だった。同時上映 は『男はつらいよ』のどれかだったが、そちらの記憶 が全くないので、よほど面白かったのだろう。松竹の ドリフ映画では一番のオススメである。
 ついでに書くと『大魔神怒る』みたいな映画は、昔 はみんなひっくるめてお化け映画扱いだった。今月は この三本で、お化け対浅丘ルリ子だ。
 映画館的に『お化け』というと、本編以外の部分に 焼き込まれた、記号や文字やらが、スクリーンに映っ てしまうことを言う。これが出ると、映写失敗を意味 する。暑さにメゲず、お化けを出さないように上映す るので、見に来ていただきたい。(2009.8)

今月のマサカズ
 最近海外で賞を獲ったりして、今、田村正和がキて いる。近頃の彼の風貌は、兄の田村高廣に似てきてい て、滋味溢れるといった感があるのだが、若い頃は、 キムタクに似ているのだ。ウソだと思ったら、今月上 映の『東シナ海』を見てごらん。22歳の初々しい彼 がとってもイイのである。
 この作品、一応沖縄を舞台にした社会派アクション ということになるのだろうが、ある時はかなりハチャ メチャなコメディであったり、またあるときはラブス トーリーだったり反戦映画だったりもし、とても一括 りにできない変幻自在の映画である。
 マサカズは、就職前の体験にとマグロ漁船に乗る爽 やかな大学生で、沖縄娘と恋におちるという、時代が 時代なら、キムタクが演ってもおかしくない役。
 マサカズの若い頃の映画は松竹に何本もあるが(こ れまたどれも良いのだが)、モノクロが多い。カラー で若きマサカズが見られるのは、ある意味貴重といえ よう。そこに流れる音楽も、亜熱帯沖縄の、けだるい 空気を表現していて雰囲気たっぷり。見所聞き所満載 の作品なのでお見逃しなく。
 この際だからキムタクファンにも見に来てもらって、 似ているところを確認していただきたい。
 今月は同じ週に、田村亮の『どてらい男』。22日 からは田村高廣の『兵隊やくざ 強奪』が上映され、 俳優、田村兄弟総出演である。(2009.7)

今月の原作者
 今月上映作品をざっと見ると、十五作品中、原作付 きが八作と約半分もある。これを多いと見るか少ない と見るかはともかく、映画というのは、なんとなく原 作を必要としていることがわかる。
 それで、今月の原作者の中でこれぞと言えば、24 日から上映の『銀座旋風児 黒幕は誰だ』の川内康範 であろう。『月光仮面』の原作者でもあり、森進一の 『おふくろさん』騒動で、一躍耳毛の長さが話題となっ たあの人物である。
 この人はとにかく大量の原作を書き、代表作も数知 れずなのだが、ソレガシはなんといっても1961年 の松竹映画『快人黄色い手袋』を挙げたい(題名は変 換ミスにあらず)。
 この作品、言ってみれば『月光仮面』のようなヒー ロー物なのだが、主演はなんと伴淳三郎! 伴淳がヒ ーローに変身とは、なんとも想像し難くいが、とにか くそういう映画なのだ。おまけに映画の冒頭には、ま だ耳毛が伸びていない(当たり前だ)若き川内康範が 登場し、『近頃のヒーローはケシカラン』と観客に向 かって口上を述べるという凄い趣向。その剣幕たるや、 『おふくろさん』騒動のあの怒りッぷりそのまンま。 昔ッから熱い人だったらしい。
 こうまで書くと見たくなるのが人情だが、残念なが らプリントがボロボロなのである。衛星劇場あたりで 放映されたら是非お見逃しなく。(2009.6)

今月のタイアップ
 今月上映の『ALWAYS 続・三丁目の夕日』も そうなのだが、近頃の日本映画を見ていると、タイアッ プ企業のタイトルが多いこと多いこと。
 劇中に使われた車だとか、建物だとか、大道具小道 具などを提供してくれた企業なので、せめて名前だけ でも出してということなのだろう。しかし、最後にズ ラズラと出るから、映画のエンド・クレジットが、企 業広告の場に思えてくる。
 昔の日本映画にだってタイアップはあったが、タイ トルではなく、劇中堂々と、その商品や企業の看板が 登場した。
 堂々などというと、露骨で破廉恥な気がしないでは ないが、時が経ってみるとなかなかの見物なのである。  たとえば有名なところでは、銀座にあった森永の広 告塔だ。『ああ……あんなのあったなあ』と、しみじ みできるのも、昔の映画を見る醍醐味である。
 タイアップではなかったらしいが、小津安二郎の映 画では、よくビールを飲むシーンが出てきて、必ずラ ベルが観客の方に向けて撮られていた。監督によると、 ビール瓶が一番美しく見えるのだそうで、おまけに、 ビール会社からお礼にビールが貰えたのだそうだ。
 ところで、4月に『江戸楽』なる雑誌が創刊したが、 5月20日発売の号から、ソレガシの映画エッセイが 連載される。これもタイアップだが、当館でも配布す るので、どうぞよろしく。(2009.5)

(補遺 2009.7)
 雑誌『江戸楽』入場者に無料配布中。数に限りがありますのでお早めにお取り下さいませ。毎月20日前後には最新号が配布出来るかと思います。

今月の裁判
 来る5月21日より裁判員制度が始まる。などと書 くと、なにやら政府公報のようだが、今月は、またま たお隣とのコラボレーションにより、ささやかなる『映 画で裁判を見よう』特集である。
 法廷物の名作は多いと言われる。理由は極端な話し、 法廷のセットがあれば、ドラマを進めることが出来る わけで、他のセットを作る費用で、ギャラの高い名優 を揃えることができるからである。
 今回上映される『事件』は、1978年の日本アカ デミー賞を総なめし、日本映画の法廷物としては最高 傑作との声もある作品。『おくりびと』を見て、日本 映画の面白さに気付いた方にも是非お薦めしたい。
 なんの関係もないとツッコまれるかも知れないが、 どちらも松竹の配給作品である。
 そしてお隣では、やはり松竹配給の『疑惑』を上映。 こちらは今年生誕100周年を迎え、盛り上がりを見 せている松本清張が、自作を自ら脚色した話題作であ る。両方見て裁判に備えていただきたい。
 ところでソレガシは、『12人の怒れる男』にカブ レているクチなので、裁判員制度にも積極的に参加し たかったのだが、昨年末までに通知が来なかったので、 残念ながら候補者者から漏れたようだ。映画で描かれ たアメリカの陪審員と今回の裁判員とをごっちゃにし ているヤカラは選ばれないということらしい。
 みなさんもご注意いただきたい。(2009.4)

今月の森谷司郎
 四十代の映画ファンには、この監督に特別の思い入 れを持つ者が少なくない。かくいうソレガシもその一 人なのだが、十代の初め、やっと大人の映画を見始め た映画のカケダシに、『日本沈没』と『八甲田山』の 二作品はどれほどの衝撃を与えたことか。
 映画監督は数多いが、二作連続で興行成績を塗り替 えた監督は、実写日本映画では森谷だけである。
 男性映画の巨匠黒澤明と、女性映画の巨匠成瀬巳喜 男の二人の師匠を持った森谷は、男も女も上手く描い た、まさに良いトコ取りの監督であった。
 1984年に53歳で亡くなるまで、監督作は21 本。決して多くはないが、戦争、青春、アイドル、メ ロドラマ、サスペンス、SF、社会派ドラマと‥‥実 に多彩なジャンルを撮り、しかも、出来不出来のムラ が非常に少なかった。生きていればまだ80歳前、お そらく大ベテランとして精力的に作品を送り出してい たに違いない。
 今回上映する『ゼロファイター 大空戦』は、森谷 の監督デビュー作。『海峡』は晩年の代表作。
 一見、男性モノに偏ったように見えるが、『海峡』 は本来、小品のメロドラマとして企画された作品(『青 函トンネル』という題名だったと思う)。それを東宝 創立50周年記念作品としてスケールアップし、男も 女も、社会機構も、スペクタクルも見せる、森谷のキャ リアを凝縮したような作品である。必見!(2009.3)

今月の大空
 今月は、お隣りの浅草名画座とのささやかなるコラ ボレーションにより、邦画四社の戦争映画を見ること ができる。
 つまりお隣りは、『太平洋の嵐』『二・二六事件  脱出』ということで、東宝と東映を担当。後者は、い わゆる戦争映画とは違うが、傑作との呼び声も高いの で、この機会に是非ご覧頂きたい。
 そして我が新劇場では、日活の『零戦黒雲一家』と 大映の『あゝ陸軍 隼戦斗隊』を上映し、海軍と陸軍 の航空隊を見ていただこうという趣向。しかも、空の 英雄を描く大映に対して、ゴロツキを描く日活という 見事なコントラスト。両方見比べるのも一興である。
 こうなると松竹の戦争映画が入っていないのが惜し まれる。
 個人的には『駆逐艦雪風』や『西住戦車長伝』が見 てみたいが、それはなかなか叶わぬ願い、ここはいっ ちょう、空つながりということもあり、近頃パチンコ 台にもなって、勢いづいている若大将に駆けつけても らった。
 『俺の空だぜ!若大将』は、大矢茂が実質的な(実 際の襲名は次の作品)二代目若大将として登場し、若 大将二倍増量(当社比)の豪華版。青大将こと田中邦 衛が、マムシに噛まれるという珍なる展開も見物であ る。高度経済成長の平和な大空も満喫していただけた らと思う。(2009.2)

今月の景気対策
 前回(1929年〜)の世界恐慌時でも大丈夫だった ことから、映画産業は不況に強いと言われている。
 が……
 こうも新聞、雑誌、テレビ、ラジオは言うに及ばず、 インターネットまで、不況、不況と、マインド・コント ロールの如く、朝から晩まで言われると、なにやらこち らのフトコロまでがお寒くなった気がするから不思議で ある。
 いや実際そうなんだが、『病は気から』ではないが、 景気だって気の持ちようである。ここはいっちょう19 30年代に戻って、映画を見て世間のウサを晴らそうで はないかッ。
 政治の機能不全に男の怒りをぶちまけてもいいし、不 況の今こそ、命を掛ける時と思ってもいい。『顔役』を 勝新が初監督したように、新しいことに挑戦するのもい いが、テロなんぞ企んで桜田門のお世話になって、爆弾 男などと呼ばれて、くれぐれも世間様を騒がせたりしな いように。
 しかしとどのつまり、人生を真実一路に生き、不況脱 出の機会には、疾きこと風の如き行動である。そうすれ ば、そのうちなんとかな〜るだろ〜お〜……♪ 植木等 の映画もプログラムに入れておけば良かった。

 ということで、本年も当新劇会館と、従業員一同をよ ろしくお願いいたします。(2009.1)

Copyright (C) SENSOHJI ROKKU All Rights Reserved. 2010